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「美しさのために、シリコンを残すべきだった?」乳房に腫瘍が見つかったとき

「美しさのために、シリコンを残すべきだった?」 乳房に腫瘍が見つかったとき、医師が「除去」を選択する理由
目次




    Netflixで配信されている作品『ダウンタイム』の中で、豊胸手術を受けた女性の乳房に腫瘍が見つかり、その後、シリコンインプラントを除去する場面が描かれています。

    この場面を見て、「せっかく豊胸して、きれいなバストになったのに……」「本人がシリコンを残したいと希望しているのであれば、その希望を優先してもよかったのでは?」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

    美容医療では、患者様が「どのようなバストになりたいのか」という希望を尊重することは、とても大切です。

    しかし、乳房に腫瘍や悪性疾患が疑われる場合には、美容面だけを優先して治療方針を決めることはできません。

    乳房手術を専門とする形成外科医の立場からすると、このような場合に最も大切なのは、「今の美しいバストを残せるか」ではなく、「患者様の身体を守るために、必要な検査と治療を適切に行えるか」ということです。

    では、なぜ腫瘍が見つかった場合にインプラントを除去することがあるのでしょうか?

    そして、「美しさ」と「安全性」この2つを、医師はどのように考えているのでしょうか?

    今回は、豊胸手術を受けた方にも知っておいていただきたい、インプラントと乳房の腫瘍について、詳しく解説します。

     

     

    そもそも「シリコン=がん」ではありません 

     



    まず、誤解してはいけない重要なポイントがあります。シリコンインプラントを入れているから、乳がんになるというわけではありません。また、インプラントに関連して知られている疾患の一つに、BIA-ALCL(Breast Implant-Associated Anaplastic Large Cell Lymphoma)があります。これは一般的な乳がんとは異なり、乳房インプラントに関連して発生することがあるT細胞性リンパ腫です。

    FDAによると、BIA-ALCLは乳房組織そのものよりも、インプラントの周囲にできる線維性の被膜や、その周囲にたまる液体(セローマ)から発見されることが多いとされています。

    また、インプラントの表面が「テクスチャードタイプ」の場合、スムースタイプと比較してBIA-ALCLのリスクが高いことが確認されています。

    そのため、

    • 乳房にしこりがある
    • 急に片方の胸が腫れてきた
    • 痛みが続いている
    • 左右差が急に出てきた

    などの変化がある場合には、単純に「豊胸後によくあること」と考えず、検査を受けることが重要です。

     

     

    では、本人が「シリコンを残したい」と希望したら? 

     



    ここが今回のテーマで最も重要な部分です。美容整形では、患者様の希望を尊重することが非常に大切です。

    • もう少し大きくしたい
    • 自然な形にしたい
    • 傷をできるだけ目立たせたくない
    • できればインプラントを残したい

    このような希望を聞きながら、患者様と医師が一緒に治療方針を決めていきます。

    しかし、「腫瘍が疑われる」「悪性疾患の可能性がある」という状況になれば、優先順位が変わります。

    美容的な希望よりも、

    ① 正確な診断
    ② 病変の広がりの確認
    ③ 必要な治療
    ④ 再発を防ぐこと

    が優先されます。

    つまり、「本人が残したいと言っているから、インプラントをそのままにする」という単純な判断はできません。

     

     

    なぜインプラントを除去する必要があるの? 

     



    BIA-ALCLの場合、病変がインプラントそのものだけに存在するとは限りません。インプラントを取り囲んでいる被膜(カプセル)や、その周囲にたまった液体に異常な細胞が存在することがあります。

    そのため、確定診断された場合には、単純に「シリコンだけを抜けばいい」というわけではありません。

    FDAも、BIA-ALCLが確認された患者様については、インプラントと周囲の被膜を除去することを推奨しています。病期によっては化学療法や放射線治療が必要になる場合もあります。

    つまり、「シリコンを残すかどうか」という美容上の問題ではなく、病変がどこに存在しているのか、そしてどこまで治療する必要があるのかという医学的な問題になるのです。

     

    「でも、胸の形が崩れてしまうのでは?」
     

    これは患者様にとって非常に大きな問題です。

    インプラントを除去すると、

    • バストのボリュームが減る
    • 皮膚が余る
    • 下垂が目立つ
    • 左右差が出る
    • 胸の上部がへこんで見える

    など、外見上の変化が生じる可能性があります。

    FDAも、インプラントを除去した後に再挿入を行わない場合、皮膚のたるみや陥凹、しわ、乳房組織の減少など、望ましくない美容的変化が生じる可能性があると説明しています。

    だからこそ、患者様が「できれば元の胸の形を残したい」と思うのは当然です。しかし、ここで忘れてはいけないのが、「美容的な問題は、病気の治療が終わった後に再建という選択肢を検討できる」ということです。

    病気の治療を優先したうえで、状態が落ち着いてから、脂肪注入などを含めた再建方法を検討するケースもあります。

     

     

    「美容」と「医学」は対立するものではありません 

     



    私は乳房形成を専門とする医師として、「美しくなりたい」という患者様の気持ちも非常に大切なものだと考えています。豊胸手術は単に胸を大きくするだけの手術ではありません。

    • 自分の身体に自信を持ちたい。
    • 服をきれいに着たい。
    • 女性らしい体型になりたい。
    • 出産や授乳後に変化したバストを整えたい。

    こうした気持ちは、決して軽視されるものではありません。

    しかし、そこに「病気の可能性」が加わった場合には、まず病気に対して適切な対応をする必要があります。美しさを諦めるのではありません。まず健康を守り、その後に可能な範囲で美しさを取り戻す。これが乳房治療において非常に重要な考え方です。

     

     

    インプラントが入っている人は全員、
    除去したほうがいい? 

     



    いいえ。ここも非常に重要です!


    「インプラント関連の悪性疾患が存在する」という情報を知ると、「怖いから今すぐシリコンを抜かなければ」と思ってしまう方もいるかもしれません。

    しかし、FDAは、症状のない患者様に対して、BIA-ALCLを心配するだけの理由でインプラントを routine に除去することは推奨していません。 特にテクスチャードインプラントについても、症状がない場合は、除去手術そのもののリスクを含めて医師と相談し、個別に判断することが重要です。

    大切なのは、「インプラントが入っている=危険」と考えることではありません。

    むしろ、「インプラントを入れている以上、長期的に自分の乳房の状態を確認していく」という意識です。

     

     

    こんな症状があれば、一度専門医へ 

     

    豊胸後、以下のような変化がある場合には、形成外科や乳腺外科などの医療機関で相談することをおすすめします。

    ✓ 急に片方の胸が大きくなった
    ✓ 数年経ってから胸が腫れてきた
    ✓ インプラント周囲に液体がたまっていると言われた
    ✓ しこりを感じる
    ✓ 持続する痛みがある
    ✓ 被膜が急に硬くなった

    BIA-ALCLでは、持続する腫れ、しこり、痛みなどが代表的な症状として挙げられています。症状がある場合には、画像検査やインプラント周囲の液体・組織の検査などを行い、必要に応じて詳しい診断を進めます。

     

     

    最も大切なのは「インプラントを残すこと」ではありません 

     

    今回のようなケースを見たとき、「せっかく豊胸したのだから、本人が希望するならシリコンを残してあげればいいのでは?」と思うかもしれません。

    しかし、医師の立場から考えると、「残せるかどうか」より先に、「残しても医学的に問題がないのか」を確認することが重要です。

    もし腫瘍が疑われ、検査によってインプラントやその周囲の被膜に関連する病変が確認されたのであれば、美容的な満足度よりも、適切な治療を優先する。れは患者様の「美しくなりたい」という希望を否定することではありません。

    むしろ、「これからも健康に、自分らしい美しさを楽しんでいただくために、まず必要な治療をする」という考え方なのです。そして治療が終わった後には、患者様の状態に合わせて、「どうすれば再び自然で美しいバストをつくれるか」を一緒に考えていく。

    それが、乳房形成を専門とする医師が考える「美容医療」だと思います。

     

     

    美しさを優先してシリコンを残すべきだったのか? 

     



    この問いに対して、医学的には「美容目的だけで残す」という判断をすることはできません。腫瘍が疑われる場合は、まず正確な診断を行い、悪性疾患が確認された場合には、その疾患に適した治療を優先します。

    一方で、インプラントが入っているだけで、症状もないのに全員が除去する必要があるわけでもありません。

    大切なのは、「インプラントを残す・取る」という二択ではなく、患者様の現在の状態を正確に診断したうえで、安全性と美容的な希望の両方を考えること。

    それが、乳房手術における本当の意味での「患者様に寄り添った治療」なのです。

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